★年代ごとの課題★この文章は、2005年度、東京都某区の消費生活通信講座のテキスト用に、書いたものです。[1].健康な生活に運動は欠かせないもの・・・年代ごとの課題・・・ この世に生を享け人生を全うするまで、人は成長し、ピークを迎えると、 やがて老化していくことは避けられません。平均寿命は80歳を超えましたが (男性77歳、女性85歳)、一人一人の寿命は、誰にもわかりません。最後ま で、健やかな心身を保ち、自分らしく過ごしたいものです。 現代の、各年代における課題は、次のような事ではないかと考えられます。 (1) 子どもの体力低下 今の子どもたち(2004年度の11歳)は、約30年前、親の世代が子ど もだった1973年度の11歳と比べると、体格は良くなりましたが、50 m走、ソフトボール投げなどの運動能力は、劣っています。この体力低下の 傾向は、中学生、高校生にも見られます。 ● 子どもの体力低下の原因 週3日以上、運動やスポーツを実施している子どもは、 30年前では、 男女とも10人のうち7人以上でしたが、今の子ども達は、男子でも、約半 数、女子では、3人に1人にまで少なくなっています。運動をする子としな い子の二極分化が見られます。 よく動く子どもは1日2万7千歩、あまり動かない子どもは7千歩ほど で、2万歩ほどの差がありました。ゲームやパソコン等に興じる時間が増 え、外で思いっきり身体を動かして遊ぶ時間が、減っている事や、車や便利 な日常生活も体力低下の一要因と考えられます。 また、この様な身体を動かさない生活は、子どもの肥満や生活習 慣病にもつながります。遊び場が少ない、少子化や塾通いなどで外遊びをす る仲間が集まらないなどの理由もあるでしょう。いずれにしても、小学校の 中学年、高学年ごろまでは、神経系が目覚しく発達する時期です。幼児の頃 から、よく歩くこと、身体を使って遊ぶこと、運動やスポーツに親しむこと が大切です。そのような環境を大人も意識して作っていく必要があります。 2) 若い女性のダイエット 近頃の10歳代、20歳代の若い女性の多くが、標準体重であるにもかかわ らず痩せたいという願望を持っています。 「女子高校生のダイエットに関する意識調査」(小川美樹)によると、女子 校生116名に対し※BMI(体格指数)による肥満の判定を行った結果、 46%が痩せ、50%が標準、3%が過体重、1%が肥満でした。96%の 学生が、痩せあるいは標準であったにもかかわらず、全体で85%の学生が 痩せたいと思っています。 10歳代後半から20歳代前半にかけては、骨量を蓄積しその値がピークに 達する大切な時期です。高齢期に骨粗しょう症にならないためにも、このピ ーク値を上げておくことが重要です。 食事回数を減らす、食べたものを吐く、薬を飲むなどの間違った方法で無理 なダイエットをすることにより、イライラ、集中力がない、貧血、生理不順 などの悪影響も出ています。しっかり栄養を取り、十分な運動で骨量を蓄積 してほしいものです。 ※BMI・・・Body Mass Indexの略語で、身長と体重の関係をみる国際的な尺 度で、肥満度の判定の指標になっている。 3) 中年期の生活習慣病予防 ● 無理をしがちな中年期 中年期は、社会的にも責任のある重要な立場となり、忙しく活躍する時期 です。親の介護も出てきます。忙しさの中で、ついつい無理をしてしまい、 自分の身体を疎かにしてしまいがちになるのが、この時期です。病気になっ て、はじめて自分自身の生活を見つめなおしたという話をよく耳にします。 ● 生活習慣病とは 高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満、がん等の病気は、運動不足、過食、お 酒の飲み過ぎ、喫煙、ストレス、過労などの生活習慣が原因で起こると考え られ、生活習慣病と呼ばれています。 日本人の死因のワースト3は、 1、がん 2、心臓病 3.脳血管疾患 であり、そのうち心臓病、脳血管疾患はまさに生活習慣病によって起こると いえます。 ● 適度な運動が生活習慣病を予防する アメリカスポーツ医学会の報告によると、定期的に運動を行い、活動的な 生活習慣を送ることは、冠動脈疾患、高血圧、肥満、大腸がん、インスリン 非依存型糖尿病、骨粗しょう症の発生率を低下させるとあります。また、も ともと活動的でない人や、体力の低い人が、身体活動を増加したり、体力を 向上させたりすることにより死亡率が低下することも示されました。 体力・運動能力は、男女とも20歳以降は、加齢に伴い徐々に低下します が、特に40歳代後半からは著しく低下します。しかしながら、1日30分以 上の運動を定期的に継続している人たちの体力は、運動を定期的に行ってい ない人と比べると高い水準を維持しています。 運動不足は、体力や運動能力の低下を助長するだけでなく、生活習慣病を引 き起こす危険な要因の一つです。 ● 有酸素運動(aerobics)で生活習慣病を予防しよう ウォーキングやジョギングのように長い時間続けて行えるような運動は、 空気中の酸素を体内に取り入れながら身体を動かしています。呼吸によって 絶えず、取り込まれた酸素は体内の糖や脂肪を燃やしエネルギーを発生させ て筋肉を動かし続けます。 このような運動を有酸素運動といいます。有酸素運動は、あらゆる生活習慣 病を予防します。中年期には、有酸素運動を生活の中に習慣づけて生活習慣 病を予防していくことが重要です。 有酸素運動については、10ページから、詳しく説明いたしました。 (4) 高齢者の老化予防 ● 運動習慣と体力 65歳から74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と呼びます。 一口に高齢者といっても、今は、若くてお元気な方々が大勢活躍していらっ しゃいます。 文部科学省の調査によると、健康状態に対する意識と新体力テストの合計点 で、「健康状態に自信がある」と答えた群は、新体力テストの合計点が最も 高く、そのうちの80%の人が、「ほとんど毎日」か「ときどき」運動をしてい ます。と答えています。 体力の全体の傾向を見ると、20歳以降、低下していきますが、40歳代後 半からは著しく低下し、65歳から79歳では加齢と共に直線的に低下しま す。日頃から運動習慣をつけて、体力低下をできるだけ緩和させたいもので す。 ● 老年症候群 老化が進行し、身体や精神的機能が低下した高齢者によく見られる諸症状 を一括して「老年症候群」といいます。その症状は、転倒、失禁、低栄養、生 活機能低下、閉じこもり、睡眠障害、うつ、軽度認知症、口腔の不衛生状 態、足のトラブル、誤飲、誤嚥など、多項目にわたります。 老年症候群の特徴は、次のようなことです。 1.明確な疾病でない・・・(年のせい)とされる 2.症状が致命的でない・・・(生活上の不具合)とされる 3.日常生活への障害が初期には小さい(本人にも自覚がない) ● 高齢者の筋肉減少を予防する 歳をとってから起こる様々な不具合(老年症候群)は、「年だから仕方がな い」とそのままにしてしまいがちです。疾病と認知症を除くこれらの症状の 多くは、筋肉が弱ってきたことから起こると考えられています。 平成13年度国民生活基礎調査によると、寝たきりの原因は多い順に、 1.脳血管疾患 26% 2.高齢による衰弱17% 3.転倒、骨折12% 4.認知症11% 5.関節疾患11% 6・パーキンソン病6% 7・その他17% となっています。 このうち、高齢による衰弱、転倒骨折、関節疾患は、筋骨格系の衰弱が関係 していると思われますが、この3つを合わせると寝たきりの原因の約40% を占めます。これらは、筋力を鍛えていくことにより、ある程度防げると考 えられます。 筋肉は使わないと、※廃用性萎縮を起こし弱まっていきます。しかし、うま く鍛えると90歳からでも100歳からでも強くなります。筋力トレーニン グの方法は、15ページからをご参照ください。 高齢期の筋力の低下を予防していくことが、※生活活動度(ADL)や※生活 の質(QOL)を向上させ、ひいては、寝たきりを防ぐことにつながります。 ※廃用性萎縮・・・人間の体は使うことでその機能を維持しており、使わな い機能は低下していくこと。 ※ADL・・・ Activities of Daily Livingの略語で、「日常生活動作」また は「日常生活活動」と訳されている。20ページをご参照くだ さい。 ※QOL・・・Quality Of Lifeの略で、「生活の質」または「生命の質」と訳さ れている。 |